
目次
投球動作のフェーズごとに
起こりやすい障害とメカニズム
野球の投球動作では、動きがいくつかのフェーズ(局面)に分かれます。
投球は全身の「運動連鎖」で行われるため、あるフェーズの崩れが、次のフェーズで肩や肘の負担を増やすことがあります。
1. ワインドアップ〜ストライド
(踏み出し)期
この段階で大きな損傷が起こることは多くありません。
ただし、ここでのフォームの乱れが、後半の負担を増やす原因になりやすいです。
- リスクになりやすい動き
- 片足立ちになった時の後方重心
- 踏み出し足が早く開く(オープンになる)
- 体(骨盤・胸)が早く回ってしまう
→ その結果、後のフェーズで肩の前側や肘の内側にかかるストレスが増えやすくなります。
2. アームコッキング期
(特に後期:最大外旋位)

ボールを離す直前に、肩が大きく外旋(後ろにひねられる)し、胸が張られる局面です。
このあたりで肩と肘の負荷がピークになりやすいと考えられています。
肘に起こりやすい障害
- 内側側副靭帯(UCL)損傷/リトルリーグ肘
- 肘に「外反ストレス(外側に反る力)」が強くかかり、**肘の内側(靭帯や筋の付着部)**が引っ張られます。
- 成長期は骨が未完成のため、**内側上顆(成長線付近)**に痛みが出ることがあります。
- 離断性骨軟骨炎(OCD)
- 肘の外側では、骨同士が押し付けられるような力が増え、関節軟骨や骨に障害が起こることがあります。
肩に起こりやすい障害
- 肩の前方(前側)の組織への負担
- 肘が背中側に入りすぎる(いわゆる“肘が引ける”)などで、肩の前側の組織に引き伸ばされるストレスがかかりやすくなります。
- インターナルインピンジメント
- 肩を強く外旋した状態で、腱板(けんばん)や関節唇(かんせつしん)が挟まれたり擦れたりすることで、痛みの原因になる可能性があります。
3. 加速期
最大外旋位からリリースまで、腕が一気に前に振られる局面です。
- 肘の内側の牽引ストレス
- コッキング期に続いて外反ストレスが強く、肘の内側(UCLや屈筋群)に引っ張られる負担がかかりやすくなります。
4. 減速期(フォロースルー前期)
ボールを離した直後、振られた腕を一気に止める(ブレーキをかける)局面です。
肩に起こりやすい障害
- 腱板損傷/関節唇損傷
- 腕が前に持っていかれる力(引っ張られる力)や、関節内のズレ(せん断力)が増えます。
- それを止めるために、肩の後ろ側の筋(腱板など)や関節唇に負担が集中しやすくなります。
肘に起こりやすい障害
- 後内側インピンジメント(伸展過負荷)
- 肘が勢いよく伸びると、肘の後ろ側で骨がぶつかりやすくなり、骨のトゲ(骨棘)などにつながることがあります。
5. フォロースルー期
腕の振りが終わり、体が回転しながら動作を終える局面です。
- 肘の伸展ストレス
- 肘が伸びきるのをうまくコントロールできないと、肘の後ろ側の衝突ストレスが増える可能性があります。
- 肩甲骨の機能低下(肩甲骨の動きの乱れ)
- 腕の動きに対して肩甲骨がうまく連動しないと、肩周りに余計な負担がかかり、インピンジメントなどに関係することがあります。
フェーズ別に何が起こりやすい?
- コッキング〜加速期
肘は「内側が引っ張られる(牽引)」+「外側が押される(圧迫)」ストレスが増えやすい。
肩は前側の組織にストレスが集まりやすい。 - 減速期
腕を止めるブレーキ動作で、肩の後ろ側と肘の後ろ側に負担が集中しやすい。 - 予防の基本
投球数の管理、フォームの見直し、疲労時の投球回避が重要とされています。
障害は「投げすぎ」だけでなく、エネルギーの伝わり方(運動連鎖)の崩れや、特定のストレス(トルク)が重なることで起こりやすいと考えられます。
1. 運動連鎖の考え方
投球は全身を使った運動で、エネルギーは下半身→体幹→肩→肘→手(ボール)へ伝わります。
- 研究では、体幹は「エネルギーを生み出す・ためる」役割、肩は「生み出す+伝える」役割、肘と手首は主に「伝える」役割が大きいと説明されます。
- そのため、下半身や体幹の働きが弱い/タイミングがズレると、末端(肩や肘)にしわ寄せが起こり、靭帯や腱に負担が増える可能性があります。
2. フェーズごとの力学
コッキング〜加速期(最大外旋とSSC)
- 肩の最大外旋は、筋力だけで作るというより、体の回転や腕の慣性で“しなる”要素が大きいとされています。
- このとき内旋筋群(大胸筋・広背筋など)は、引き伸ばされてから縮む流れ(SSC:ストレッチ・ショートニング・サイクル)になり、強い球を投げやすい反面、負担も大きい状態になります。
- 肘は外反ストレスが増え、UCLや屈筋群が負担を受けやすくなります。腕の上げ方(肩の外転角度)が極端だと、肘ストレスが増える可能性があります。
加速〜リリース(「肘を伸ばす」の正体)
- リリースに向けて肘は速く伸びますが、肘を伸ばす上腕三頭筋で「押し出して伸ばす」のではなく、体幹回転・肩の動き・腕の慣性の結果として伸びる要素が大きいと説明されます。
- つまり、腕力で押し出す投げ方より、全身の回転の流れで自然に肘が伸びる方が、効率的になりやすいです。
フォロースルー(ブレーキ動作)
- リリース後は、腕が伸びきるのを止めるために上腕二頭筋などがブレーキとして働きます。
- ここが疲れていたり、フォームが崩れていたりすると、肘後方の衝突ストレスが増える可能性があります。
3. 肩甲骨の乱れ(Scapular Dyskinesis)とGIRD

- 肩甲骨は「腕の土台」です。肩甲骨の位置や動きが乱れると、肩のインピンジメントや関節唇損傷だけでなく、肘への負担増加にも関係すると指摘されています。
- GIRD(投球側の肩の内旋可動域制限)も、肩・肘の障害と関連が示唆されています。可動域や柔軟性だけでなく、投げる量・疲労・筋力バランスもあわせて見ることが大切です。
エネルギーフローを良くする投球フォームの要点(下半身→指先)
投球で大切なのは、下半身で作ったエネルギーを、途中で漏らさずにボールへ伝えることです。
1)下半身とストライド:土台作り
- ストライドは体重移動の土台になります。
- 踏み出し足が早く開くと、骨盤が早く回りやすく、エネルギーロスや肩肘ストレス増加につながる可能性があります。
- 着地後は、踏み出し脚がブレーキになり、直線のエネルギーが回転へ変わって体幹へ伝わります。
2)骨盤と上胴の“時間差”(捻転差):増幅
- 骨盤が先に回り、胸(上胴)が遅れて回る「時間差」があると、体幹がしなってパワーが出やすくなります(いわゆる“われ”)。
- 逆に同時に回ると、体幹で増幅できず、肩や肘が頑張りすぎる形になりやすいです。
3)踏み出し脚の伸展:加速のスイッチ
- 着地で衝撃を吸収したあと、リリースに向けて踏み出し脚が伸びると、骨盤の前への動きに強いブレーキがかかり、上体と腕が前に加速しやすくなります。
4)上肢:伝えて離す
- 肩の外転角度(脇の開き)が極端だと、効率が落ちたり肘ストレスが増えたりする可能性があります。
- 肘の伸展や手首の動きは、「腕で頑張って作る」よりも、体幹回転と肩の動きの流れで起こる割合が大きいと説明されます。
理想的なエネルギーフロー
(まとめ)
理想は、
下半身の体重移動 → 踏み出し脚のブレーキ → 骨盤回転 → 遅れて胸が回る(捻転差の解放) → 腕がしなり→ リリース
という流れが、スムーズに起こることです。
一方で、
骨盤と胸が同時に回る/踏み出し脚が踏ん張れない/肩甲骨がうまく動かない
などがあるとエネルギーが分散し、肩や肘に“代償”が起こって負担が増える可能性があります。
注意:この記事は投球障害の代表的なパターンをわかりやすくまとめたものです。実際の痛みの原因は、フォームだけでなく、投球数・疲労・成長期の骨の状態・柔軟性や筋力・過去のケガ・練習内容(球種、登板間隔、遠投量など)によって大きく変わります。
そのため、同じフェーズで痛みが出ても、原因や対策が人によって異なることがあります。



